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Report

《 2018.11.8 》
ハノイでみた送り出しの現場 

【現地取材】ベトナムの人材は定着するのか 介護施設が持つべき視点とは?


《 撮影:結城康博 》

昨年11月、技能実習制度に介護分野が加えられました。来年4月には新たな在留資格も創設される予定です。実際にどれくらいの人数がやってくるのか? どんな人材がサービスを担うことになるのか? そうした感触を得ようと、私は8月中旬にベトナムの首都ハノイへ行ってきました。その時に知り得たことをまとめ、2回に分けて皆さんへ報告しようと思います。
 
《 1回目はこちら 》
ベトナムからどんな人材が来るか 関係者が慎重になる2つの理由
 
2回目の今回はB社のレポート。来日を目指す方々は何に期待しているか、日本の介護現場に定着してもらえるか、ということも考えていきます。

「年間1000人を目指す」

 

B社はいわゆる商社。ベトナム政府の公認を受けていますが、A社と違って技能実習生の送り出しのみを生業にしているわけではありません。他にも様々な事業を展開している大企業です。社内は洗練されていて締まった雰囲気。そこで送り出し部門のトップに話を聞くことができました。

《 B社トップにインタビュー 》

「日本政府はベトナム政府と、年間1万人の介護人材の受け入れに向けて力を合わせていく協定を締結しました。我々はその10分の1を担当していきたい」。彼はそう語り、年間で1000人ほどを日本へ送り出すという目標を明らかにしました。日本政府は協定の存在を否定しているようですが、ベトナムでも認識が共有されています。現地では日本語の資料まで出回っていました。
 
B社は今後、日本に介護人材を送り出すことを最大の目的とする看護学校を創設する計画です。日本語も必修科目の1つ。生徒には日本語能力試験の「N3」レベルを身につけてもらうと聞きました。日本式介護の研修も盛り込み、現場で活躍できる優秀な人材を育てていく方針です。

《 B社のオフィス 》

看護学校というとやや困惑されるかもしれませんが、ベトナムには日本のような国民皆保険制度や非常に充実した医療体制はありません。そもそも医療現場の仕事が多くないので、看護学校を出ても国内の病院などに就職できるのは3割程度に留まるそうです。生徒もそのことは分かっていて、多くが外国で働くことも視野に学校へ通っています。当然、学校側も外国に目を向けざるを得ません。日本へのルートを確保して卒後の選択肢を増やしておくことは、学生を多く集めて経営を安定させる大事な要素となります。
 

 全寮制で日本語を勉強

 

本社での取材を終えたあと、私はハノイ郊外へ車で1時間ほど移動しました。向かったのはB社が既に運営している研修施設。介護の技能実習生としての来日を目指す150人ほどが勉強しているところです。

《 B社の研修施設 》

ここは全寮制。メインは日本語で、日本式介護を学ぶための設備もあります。A社と同じように、成績の良い人材から少しずつ送り出していく方針と聞きました。ゆくゆくは看護学校としてリニューアルし、教育レベルをさらに高める計画です。やはり人材の育成にはかなり気を配って取り組んでいるな…。一通り見学させてもらい改めてそう感じました。

《 生徒の生活の場 》

ただし、ベトナムだけで年間1万人はさすがに多い。きっと人材にバラツキが出てくるはずです。日本の介護現場の人手不足は確かに深刻ですが、数字ありきで受け入れを強引に進めるのもよくないでしょう。サービスの質に悪影響が及べば、不利益を被るのは要介護の高齢者やそのご家族です。
 

 介護技術より役立つ日本語

 

実際に来日を目指している人はどんなことを考えているのだろうか? そうした疑問から、私は“経験者”にも話を聞きました。EPAの枠組みで介護福祉士の候補者として働き、既にベトナムに帰ってきた人です。

《 写真は引き続きB社の研修施設 》

彼女たちはA社、B社のような送り出し機関で日本語の先生として働いていました。日本の職場、あるいは生活についてよく知っており、読み書きも含めて日本語がとても上手です。待遇は良いそうです。ハノイで暮らしていくには十分な給料を貰えると聞きました。日系企業や旅行会社などで日本語スキルを活かす選択肢もあり、その道を志す人もいるそうです。日本式介護の技能より日本での経験や日本語スキルの方が良い仕事をもたらす − 。そんな実情が見えました。
 
介護分野の実習の評判は必ずしも良いものだけではありません。「日本語要件などがあって行くまでが大変」「ハードルが高いわりに給料はそう多くない」といった考えから、農家や工場を選ぶ人も少なくないようです。一方で、コミュニケーションや読み書きの機会が非常に多いため日本語スキルを伸ばしやすい、というポジティブな意見も耳にしました。
 

 永住するのはごく一部

《 こちらもB社の研修施設 》

彼女たちへのインタビューも踏まえ、私は日本に長く留まるベトナム人はかなり少ないだろうと思っています。EPAの枠組みも同じですが、ある程度の経験を積んだら帰る人が圧倒的に多くなるでしょう。
 
来日の最大の目的はやはり出稼ぎ。多くの人がやがて家族の元へ戻ることを前提としています。加えて、彼らには身につけた日本語スキルを母国で活かす道もあります。この場合、物価の高い日本で介護職として働くより良い生活を送れるでしょう。結婚や出産といったライフイベントもありますし、介護福祉士になって永住権を得る方はごく一部とみるのが妥当と考えます。

《 これもB社の研修施設 》

ベトナム人の受け入れを計画している施設には、そうした認識で臨むことをお勧めしたい。体制を整えて寛大に受け入れれば長く活躍してくれる、といった過剰な期待は禁物です。新たな在留資格の制度設計にもよりますが、3年から5年で離れていく一時的な人材と捉えておくのが無難でしょう。
 
外国人の受け入れにはお金がかかり、彼らを指導する既存の職員にも相応の負担がかかります。いざ受け入れるとなると、十分な日常生活のサポートも絶対に欠かせません。だいぶ仕事を覚えてくれたな、という頃に辞めてしまうケースも少なくないでしょう。
 
同じようにコストをかけ、将来的に中間管理職となって現場を牽引する日本人をしっかりと育成していき、サービスの質を維持・向上させることも非常に重要です。一方で、ダイバーシティを推進してメリットを生み出すことも検討すべきです。他施設に劣らない人材確保の総合戦略をどう描いていくのか − 。経営者や施設長はこれまで以上に多角的な視点が求められそうです。

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